独創性と新感覚あふれる作品と今後の活躍が期待できる写真家の発掘とサポートを目的とされた公募展「ARTBOX写真賞」特別賞を受賞された森 合音さんの展覧会が開催されております。写真を媒体としたオブジェ制作を中心に取り組む森さんの作品にまつわる興味深いエピソードをお聞きしました。
プロフィール 1972年 徳島県生まれ 1995年大阪芸術大学 写真学科卒業 1999年風花随筆文学賞 優秀賞受賞 2005年 富士フォトサロン2005新人賞受賞、エプソンカラーイメージング亜ワード2005 エプソン賞受賞 2006年 写真家ユニオン公募展 奨励賞受賞 2007年Professional Photographer 200人展出品、ART BOX写真賞 特別賞受賞 著書:『太陽とかべとかげ』清流出版 2007年7月1日より個展 ARTBOX写真賞について
夫の遺したカメラで 今回ARTBOX写真賞 特別賞を受賞し、このように作品を発表できる場と時間をいただけてとても嬉しく思います。 私は夫を亡くし、その日から彼の使っていたカメラを持ち歩くようになりました。当時は全てが悲しく、私の精神は今にも崩れ落ちそうな状態でした。そんな私と外の世界とをつなぎとめていたものが写真でした。私は写真を撮ることで自分自身をなんとか保ち、傷ついた心を少しずつ癒していったのだと思います。必死にシャッターを切り、何とか自分の中でおこっている出来事と向き合おうとしていました。ただただ感情のままに撮りためた当時の写真でも、時間を経た今、改めて観ることで、あの頃わからなかった自分自身のことが少しわかるような気がしています。悲しみから目をそらさずに 私の作品は、死をテーマにしたものが多いためか、ネガティブに捉えられがちですが、私自身としてはそうは考えておりません。 痛みから目をそらしていては何も変わりません。目を開いて、自分自身の痛みとしっかり向き合うことによって、少しずつ、少しずつ傷がとれていくのを感じています。過去のさまざまな出来事の上に今日があり、今日というこの日が明日へとつながってゆくのだということを表現したいと考えています。娘たちのために 私には二人の娘がいます。彼を亡くし、自分のことで精一杯になってしまった当時の私は、子供たちにどう声をかけていいかわかりませんでした。もちろん子供たちを愛していました。そこで、子供たちに対する自分なりの精一杯の愛情や親としての姿勢を残しておきたいと思い、写真に残すことにしました。彼女達が大人になったときに、当時の私のことを少しでも理解してもらえることを望んでいます。 螺旋状に上昇する 私は作品は生き物のようなものだと考えています。これからも私と共に生き続け、時間の流れと共に変化してゆくと思います。 生きてゆくということは一瞬一瞬の積み重ねなのだということを胸に深く刻みながら、私はこれからも写真を撮り続けてゆくと思います。 いくつもの断片は層として重なってゆき、やがて螺旋状に上昇してゆくことでしょう。
作品一覧 トタンごしの風景-小声で話す-\28,350- クレヨンでのドローイングとトタンの写真を組み合わせた作品です。現実と非現実的なものを重ねることによって、自分の内の世界と外の世界とを調和させたいと考えました。 トタンは「絶対的ではない境界線」の象徴です。いつか取り払えるかもしれないという希望を込めています。
マーガレット \21,000- 何気ない日常の風景が、傷付いた心を癒すことがあります。風景は観るものの心によって大きく変わるのです。 何かと何かがクロスする場所には必ずコミュニケーションが生まれます。その象徴としてモチーフに小さな十字架を付けています。
まだ発芽しない小さな種をいくつもNo.20 \2,100- こちらは最近の作品になります。 美しい日常の断片をガラス瓶に閉じ込めました。化学で証明できるものや目に見えるものが全てではないというメッセージ性を込めて、薬品を入れるガラスの容器に写真を入れました。
自分自身の痛みと真っ向から向き合っている森さんの瞳がとても印象的でした。生きることに対してとても誠実な姿勢に心打たれます。森さんにとって制作とは生きることそのものであり作品は身を焦がすような想いがむき出しのコミュニケーションの軌跡なのでしょう。「生きるとは」という問いを心の奥深くに強く訴えかけてくる力を感じます。 森さんのこれからのますますの活躍を期待しております。
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